第5巻第1号 目次


論文
クロスオーバ・デザインの是非の再検討 山本成志・田崎武信・後藤昌司
クラスター分析における焼き鈍し法の有効性 佐藤義治
マニュアルのわかりやすさに関与する文書表現特性の探索  高橋善文・吉田哲三・衛藤俊寿
統計ソフトウェア“S”における自己相関関数の計算アルゴリズム  永井武昭・良藤 敬
プリンシパル曲線のアルゴリズムの改良とその計算量の評価  山下信之・南 弘征・水田正弘・佐藤義治
総合報告
連結線分図とそれに基づく検定統計量 白旗慎吾
ソフトウェア記事
SToolkit:S言語上のGUI構築ツール 上野喜正・町井昌徳
オブジェクト指向データ解析システムS−PLUS 田澤 司
最近のSAS統計プロシジャ開発事例 岸本淳司
データ解析言語EWS/SII 武田啓子・石橋雄一
μSTRACTによる分散型の統計解析処理 清水 始・高榎勝義・金澤孝志
学会活動記事
第5回日本計算機統計学会シンポジウム報告 駒澤 勉
欧文誌掲載論文概要:J.Japanese Soc.Comp.Statist.,4,1991  大西治男・垂水共之
関連学会記事
第48回国際統計会議(ISI’91)参加報告 岡崎威生
第3回太平洋地域統計会議に出席して 稲垣宣生
第4回日中統計シンポジウムに参加して 山口和範
読者の広場
すてきなあなたに「しぐさの美学」 藤野和美
計算機統計学会に期待すること 鳥居あづさ
学会雑感 太田 宏
一般教育部教育事情 宮井正彌
日本計算機統計学会5周年記念「国際研究集会」について 嶋田幸二
編集委員会からのお知らせ
執筆要項(改訂) 編集委員会
ソフトウェア記事:募集要項 編集委員会


クロスオーバ・デザインの是非の再検討
山本成志, 後藤昌司:塩野義製薬(株) 解析センター
田崎武信:塩野義製薬(株) 解析センター研究所室

本報告では, 二つの治療(薬剤)を二つの期で試験する2 治療2期のクロスオーバ試験に限定し, 臨床試験におけるクロスオーバ・デザインの適用の是非を再検討する. とくに, 文献にみられるクロスオーバ・デザインの肯定論と否定論の系譜を提示する. そして, クロスオーバ・デザインのアキレス腱ともいうべき持ち越し効果の問題を配慮して, 試験の「計画」段階における, 第1治療期と第2治療期の間の洗い流し(wash-out)期間の設定, 治療の被験者心理への侵襲性(治療の盲検化), 応答(評価指標)水準の経時的な変化, 被験者の治療順序群への割付けでのバランス, への注意を喚起する. クロスオーバ試験成績の「解析」段階で持ち越し効果が検出された場合に, 事後的に対処できる一つの手段として, 応答観測値の変換を考えた. 実際に, ベキ変換と交替条件付き期待値(ACE)に基づいて5種の文献例を再解析した結果, 持ち越し効果は変換によっても救済されにくいことが示唆された. したがって, クロスオーバ・デザインの適用では, 計画段階での事前の検討がとりわけ重要となる. 最後に, クロスオーバ試験が比較的に多用されている臨床分野について触れる.
keyword{Clinical trials, Residual effect, Carryover effect, ACE-transformation, Power-transformation}
クラスター分析における焼き鈍し法の有効性
佐藤義治:北海道大学 工学部 情報科学教室

有限個からなる分類対象(個体)について, クラスター数を与えてクラスター内偏差平方和を最小とするクラスタリングは組み合わせ最適化問題となる. この組み合わせ最適化問題を直接に解くことは現実的でないため, 従来その近似的手法としてKM(K-Means)法やISODATA(Interactive Self-Organization of Data)法などが用いられている. 本論文の目的は, 組み合わせ最適化問題を解くアルゴリズムとして最近に提案されたシミュレーションによる焼き鈍し法をクラスター分析に適用すること, およびそのアルゴリズムの有効性を検討することである. 組み合わせ最適化問題において大域的最適解を得るためには, 本アルゴリズムを用いても従来の計算機(逐次処理型計算機)を用いる限り, その計算量は決して少なくはない. しかし, 高速性あるいは並列性が十分に機能する計算機が得られるならば, 本アルゴリズムは有効であることを示す.
keyword{Cluster analysis, Global optimum, K-means method, Local optimum}
マニュアルのわかりやすさに関与する文書表現特性の探索
高橋善文, 吉田哲三:富士通(株) 沼津工場 ソフトウェア技術部
衛藤俊寿:(株)富士通大分ソフトウェアラボラトリ 応用情報システム部

先に, マニュアルのわかりやすさの質的向上を目的として, 表現上のわかりやすさを定量的に評価する方法の枠組みが与えられた(高橋・牛島, 1991), そこでは, マニュアルの表層からなる形態素を基礎にして, わかりやすさ因子の抽出方法, 当該因子の定量的評価方法, およびわかりやすさの総合評価のモデル評価式が提示された. 本論文では, そのモデル評価式の意義と問題点について考察し, さらに, マニュアルという世界に限定された問題点に対する解として回帰樹木法の適用を基礎にする新しい評価方法の枠組みを与える. 具体的な問題の一つとして, 開発中のマニュアルの各形態素に対応した定量的な改善指針が適時に得られないことがある. 回帰樹木法では, 任意の形態素の値が決まれば, マニュアルをよりわかりやすくするために他の形態素をどのような範囲に保てばよいかが予測可能である. ここに, 回帰樹木法の適用結果を考察し,それが掲記の課題に対して有用であることを確認した.
keyword{Clarity, Computer manual, Technical communication, Regression tree}
統計ソフトウェア“S”における自己相関関数の計算アルゴリズム
永井武昭・良藤 敬:大分大学 工学部 知能情報工学科

ワークステーションの普及とともに, データ解析分野では統計ソフトウェア"S"が広範に利用されている(永井, 1991). 本論文では, これから"S"を利用しようとする解析者, あるいはまだ"S"に十分に習熟していない利用者に対し, "S"で時系列データの自己相関関数を計算する際の計算所要時間の短縮に役だつ計算アルゴリズムについて, 簡単ではあるが有用な方式を提示する. 統計ソフトウェア"S"で時系列データの自己相関関数を計算するには, 少なくとも3種の異なる計算アルゴリズムがある. それらのうち, BASICやFORTRANに習熟したデータ解析者にとって最も標準的と思われるのは, おそらくforループによる反復計算である. さらに, "S"では, この他にも簡単な組み込み関数 Sum()を用いたベクトルの内積演算による方法, 行列形式の積演算%*%で内積計算を行う方法がある. 長さがせいぜい100前後の時系列データの自己相関関数を計算するときでさえ, その計算所要時間の間に実に大きな差の生じることが経験的に知られている. 本報告では, 秒単位の時間しか出力できない stamp() 関数を用いて, 実際的な解析環境のもとで計算所要時間を計測し, その数値的な比較を試みた. その結果, 標準的と見られる forループによる計算方式に比し, ベクトルの内積演算アルゴリズムを用いる方式が計算所要時間をはるかに短縮することが示された. 本論文中の数値例における計算所要時間は CPU 時間ではなく, 相当に粗いものである. しかし, その計算所要時間の差異があまりにも大きいので, 有利なアルゴリズムの選択には十分な結果であると思われる.
keyword{Vector-multiplication algorithm, For-loop algorithm, Computing time}
プリンシパル曲線のアルゴリズムの改良とその計算量の評価
山下信之・南 弘征・水田正弘・佐藤義治:北海道大学 工学部 情報科学教室

データ点に曲線をあてはめる方法は多数あるが, 説明変量と目的変量の区別が明確でない場合, つまり外的基準のないデータに対し, 一般的な曲線をあてはめる手法はそれほど多くない. その種の手法の一つとして, Hastie & Stuetzle(1989)がプリンシパル曲線(Principal Curves)を提案している. プリンシパル曲線は主成分分析などで得られた初期値から出発して, 期待値ステップと射影ステップによる更新を収束条件が満たされるまで繰り返すことによって得られる. そのうち, 射影ステップでは, 各データ点から折れ線上の最近隣点を探索しなければならないが, 直接的な方法で探索するとデータ数 Nの2乗のオーダの計算量を要する. 本論文ではそれに対して, 曲線(折れ線)を2分木構造に割当て, 2分木の再帰的な探索に帰着させることで, 効率的に最近隣点を探索するアルゴリズムを提案する. さらに, そのアルゴリズムについていくつかの状況で計算量を評価し, 実際の数値実験によって得られた結果からその有効性を論じる.
keyword{Curve fitting, Projection step, Expectation step, Computational complexity, Recursive binary-tree search}
連結線分図とそれに基づく検定統計量
白旗慎吾:大阪大学 教養部 統計学教室

データのグラフ表現は, データのもつ情報を, 視覚による直観により把握することを目的に開発されてきた. ただし, 直観のみでは我田引水の解釈に陥りやすく, 数理的解析が可能なことが望ましい. 本論文では, 脇本や著者らが発表してきた一連の連結線分図に基づく方法を紹介する, 多くの場合に, 連結線分図はグラフによる直観的解釈を与えるとともに, その直観を表現する統計量の構成を可能にする.
keyword{Graphical method, Nonparametric statistic, Association measure, Agreement measure, Goodness-of-fit, Symmetricity measure, k-sample problem}
SToolkit:S言語上のGUI構築ツール
上野喜正, 町井昌徳:(株)アイザック

近年, グラフィカル・ユーザ・インターフェイス(GUI:Graphical User Interface)が広く認識されるようになったが, 利用者が自由に GUIを作成できる段階には至っていない. 本稿では, 利用者が GUIを作成する際の問題点を考察し, その解決策として開発された S言語ライブラリ SToolkit を紹介する.
オブジェクト指向データ解析システムS−PLUS
田澤 司:(株)数理システム

本記事では1991年に改訂された S言語の特徴と, それに基づく S-PLUS version3.0 を紹介する.
最近のSAS統計プロシジャ開発事例 
岸本淳司:(株)SASインスティチュートジャパン

1992年の時点で SAS社が開発を進めている新しい統計プロシジャ群の概要を紹介する.
データ解析言語EWS/SII
武田啓子:日本電気ソフトウェア(株)
石橋雄一:日本電気(株)

近年, ワークステーションの普及により, データ解析もその中心を UNIX上に移しつつある. AT & Tで開発された S言語は, この UNIX上の代表的データ解析言語としてその地位を確立しつつある. このたび, 1989年版 S言語をべ一スとしたデータ解析言語 EWS/SIIに拡張機能として, OSF/Motif をべ一スとした GUI(Graphical User Interface)とそのカストマイズ機能を付加したので,それらについて紹介する.
μSTRACTによる分散型の統計解析処理
清水 始:富士通(株) 沼津工場
高榎勝義, 金澤孝志:(株)富士通大分ソフトウェアラボラトリ

μSTRACTは, ワークステーション(以降 WSと略す)で動作するシステムである. ここでは, μSTRACTの機能の概要を説明するとともに, 統計解析処理に対するμSTRACTの支援機能について紹介する.

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